少年と騒がしい朝  ――あるいはそれを幸いと

「あんたって、拝み屋じゃなかったのか?」
 阿鼻叫喚の地獄絵図、と称するのが相応しいであろう周囲を何でもない様子で観察しつつ、雪城飛鳥がそう問うと、背の高い青年は煙草を口に咥えたまま肩をすくめてみせた。
 銀に近いアッシュ・ブロンドに染めた髪と、青みがかった漆黒の目を持つ、どこにでもいるような青年だが、飛鳥が身を置く裏の世界において、彼の名を知らぬ者はいないほどだ。
「拝み屋稼業だけじゃ食うて行けんからな」
「……そっちはあんま売れてないのか。そのうち拝み屋ハルじゃなくて喧嘩屋ハルとか呼ばれるようになりそうだな」
「余計なお世話じゃ、ほっとけ」
 毒づきつつも笑っている彼に、飛鳥もかすかな笑みを浮かべる。
 三年ちょっとのつきあいだ、多分、彼にも飛鳥が笑ったことは伝わっているだろう。
 そもそもが、霊魂などという、飛鳥の理解の範疇を超えた存在を相手にして飯を食っている人物なのだ。この青年は、人の感情の機微や、気配のちょっとした変化に驚くほど聡い。
「まぁ、手間が省けてよかったけどな。しかし、この場合報酬は折半か?」
「いや、俺の依頼主は別や。前金できっちりもろとる。勿論くれる言うんやったらもらうけどな、自分がもろといたらええんとちゃうか? 俺かて、自分のお陰で楽させてもろたわけやし」
「ふむ、確かに」
 淡々と、平素と何ら変わりない言葉を交わすふたりの足元、半径十メートルの円内では、顔面を血まみれにし、腕や脚をあらぬ方向に折り曲げた男たちが折り重なって呻いている。
 飛鳥は、暴力団もどきのタチの悪い連中に町を荒らされて困り果てた住民から依頼を受けて動いたのだが、彼は彼で別の相手から彼らの殲滅を頼まれたものであるらしい。
 薄汚れた路地裏は、断末魔の呻き声で満ちていた。
 数にしておよそ四十の彼らを、たったふたりで完膚なきまでに叩き潰すなどということは、東京の暗部において"ユーティリティーズ"の異名を持つ何でも屋飛鳥と、拝み屋が本職と言いつつほとんど荒事専門の便利屋と化している青年のふたりがそろって初めて出来る芸当だ。どちらかがいなければ、恐らく、三分の一は取りこぼしてしまっていただろう。
 ――無論、ひとりだったとしても返り討ちになる、とは言わないところが、このふたりの恐るべき力を如実に物語っているのだが。
「まぁええわ、任務完了や。こいつらどうする?」
「桜井さんに話は通してある。叩けば埃の十や二十は出るだろう。というか、出なくても何かしらでっち上げて放り込んでくれと頼んでおいた」
「なるほど、ほなここに放って帰ったらええな」
「ああ、もうじき来ると思う」
「よっしゃ、帰って酒でも飲んで寝よ」
「せっかくの大晦日なのに、一緒に過ごすような相手もいないのか」
「翠森(すいしん)と赤衛(あかえ)はいるで?」
「そりゃ身内だろ。そうじゃなく、この前言ってたみたいな、可愛い彼女とやらは出来たのか」
「……」
「ああ、判った判った。俺が悪かった。出来なかったんだな。二十七歳にもなってとか言わないから心配するな」
「もう言うとるやんけとかそれ以前に、自分のその余裕ぶりが超むかつくんやけど俺はいったいどうしたらええ?」
「知るか、そんなもん」
「くそ、ホンマむかつく。もてる男はええのう。こないだかてあれや、セレナが言うとったで、たまには顔出してくれんと寂しゅうてしゃあないって。あのきっつい女にそんなこと言わせるん、自分だけやねんぞ、そこんとこ判ってるか?」
「さあ」
 二年ほど前に依頼を受けたとき、色々な便宜を図った所為か、今でもずっと自分を気にかけているらしい某ナイトクラブのホステスの顔を脳裏に思い起こしつつ飛鳥は肩をすくめる。
 義理堅い女だとは思うが、別に、そこまで気にかけてもらうほど大したことをしたわけでもない。
「あー、あかん、全然まったくどーしょーもなく駄目やな自分。セレナが可哀相やわ。美咲も清香も明実も優子も、みんな自分のこと気にしてんのに、ほんま報われんわ。いっそ呪われてまえ」
 深々と溜め息をつかれ、呪詛の言葉を吐かれてもどうしようもない。
 飛鳥にとって色恋は遠い世界の出来事だし、女心の機微などというものは理解の範疇外だ。そもそも、気にされているからといって何をどうすればいいのかすら判らない。
 あまりに重いものを背負う彼が、他者からの言葉のひとつやふたつで今更変われるはずがないのだ。
 実際には、青年もまた、そのことはよく知っているはずなのだが。
「ま、俺も帰るよ。爺さんに酒を買って来るよう言われてるから」
「ああ、博士は元気か?」
「傍迷惑なくらい元気だ」
「そりゃよかった。あんな傑物はそうそうおらんで、大事にしたりや」
「……時と場合によるな、それは」
 肩をすくめたあと、飛鳥は身を翻す。
「じゃあ、またな。『よいお年を』」
 言うと、青年は苦笑して頷いた。それから、ひらひらと手を振ってみせる。
 飛鳥が『また』という表現で挨拶を交わす相手はそう多くない。
 いつ途切れるとも知れぬ脆い絆、この暗い世界では面倒ごとに発展しかねない友人という存在を、脛に傷持つ身として、あえて作ろうとは思っていないからだ。
 しかし彼は、この裏社会では"ユーティリティーズ"もしくは"フェイ"でしかない謎の存在である飛鳥の本名を知る数少ない存在だった。友達かと訊かれれば首を傾げるだろうが、彼に何かあったら、きっと飛鳥は無償で動くだろう。
 彼も同じく、飛鳥のために無償で動くように。
 飛鳥にとって、この青年はそういう関係、そういう立ち位置の存在だった。何もかもを預けて安堵できるわけではないが、少なくとも、彼の前でなら飛鳥は自分を偽らずに済む。
 じゃあな、ともう一度告げて歩き出そうとした飛鳥を、
「……なあ」
 ためらいがちな青年の声が呼び止める。
「どうした」
 立ち止まり、振り返ると、彼は何とも言えない表情を浮かべ、
「ずっと、訊こうと思てたんやけど」
 そう、小さな声で言った。
 飛鳥は首を傾げる。
「ああ」
「あんな、気ぃ悪ぅせんといてや」
「だから、何をだ」
「――……麗日(れいか)ちゃんて」
 唐突に出たその名に、思わず沈黙したのは事実だ。
 それは飛鳥のトラウマそのものだ。
 だが、青年が飛鳥をよく知り、飛鳥が彼を信頼するのは、ふたりの関係が、飛鳥がまだ唯一絶対の存在のために生きていた頃からのものだからなのだ。そこで答えをはぐらかすようなことはしないし、出来ない。
 ――実際には、あの別れの日から二年も経っている。
 顔を見ないことを訝しく思わなかったはずがないのに、今になって尋ねたのは、それが彼なりの気遣いの結果、もしくは答えを恐れて問いを切り出せなかった彼の弱さなのかもしれない。
 飛鳥はごくごくわずかに苦笑し、首を横に振る。
「死んだ。もう二年になる。――そういえば、ちゃんと言ってなかったな」
 淡々とした飛鳥の物言いに、青年は視線を下に落として黙り込んだ。
 彼は、飛鳥の『絶対』を知る、数少ない人間だった。
「なんも出来んくて、ごめんな」
「あんたに謝られるようなことじゃない。どうしようもなかったと、思うようにしてる」
「……そか。ごめん、変なこと訊いて。ほなな、また来年。身体には気ィつけや。って、自分に言うだけ無駄やろけどな」
「ああ、またな」
 十も年上とは思えない、どこか子供っぽい顔で笑うと、青年は手を振った。
 それへわずかに手を上げてみせ、そのまま飛鳥は路地裏を後にする。
 年がひとつ動いたくらいのことで、この、無為で危険で騒がしい日常に変化があるとは思えなかったが、しかし今はまだ、自分にここにいろと言ってくれる存在がいる。
 手を差し伸べ、笑顔を向けてくれる人間がいる。
 ならば、もうしばらく、そのために生きていてもいいだろうと思う。
 ――無論、自分に残された時間が、それほど多くないことを理解してはいるけれど。



 何もかもが黒ずくめ、黒一色とでも言うべき、少女めいた繊細な顔立ちの、しかし中身は鬼以上という苛烈で非凡な少年が、足音も気配もなく立ち去るのを見送って、黒神杳(くろかみ・はるか)はしばらく黙ったままで煙草を吹かしていた。
 ふわりと立ちのぼる煙を見上げ、溜め息とも苦笑とも取れぬ息をこぼす。
 彼もまた、この平和な世においては重すぎるほど重い生い立ちと責務を負い、運命とかいうものに翻弄されている類いの人間だったが、それでもあの少年ほど苛酷な道を歩んで来てはいないと思う。
 杳は、雪城飛鳥という規格外の少年の生い立ちから今までを知る、数少ない――もしかすると、この世界でただひとりの――人間なのだ。
 だからこそ、苦悩と悲嘆に満ちた生を歩む彼に、一条の、奇跡のような光が射すようにと、願わずにはいられない。
 あの漆黒の少年が、あまりにも己に何も願わぬがゆえに。
 そしてあの、今は失われた白い少女が、少年の幸いを何よりも願っていたことを知っているがゆえに。
「――……盟主」
 そこへ、背後からかかったのは、飛鳥の言うところの『身内』の声だ。
 気配も物音もなく現れたふたりを、杳は驚くでもなく見つめ、苦笑する。
「やっぱ、あいつと同じ場にはいられんか」
「はい。あの方は、我らの『力』をかき消してしまわれますので。あの方がおられる場では、我らはただのヒトにすぎなくなってしまいます。それでは盟主をお守りできませんから」
「しかし、やはり、あの方が通られた後には雑多な霊ひとつ残りませんな。我らの勤めも楽になります。――何にせよ、稀有な方です。巧くは表現できませんが、彼を待つ、大きな使命の存在を感じます」
「……せやな」
 杳が頷くと、黒髪に翠の目をした男と、黒髪に赤の目をした青年、明らかに人間とは違った雰囲気を持ったふたりが、飛鳥の去った路地の向こうを、鮮やかな色の眼で見つめた。
「まぁええわ、帰ろか、翠森、赤衛。報酬たんまりもろたし、なんか美味いもんでも食いに行こ」
 何事にも潔すぎる、孤独で強靭な少年のことを脳裏から振り払うようにして、杳はふたりの従者に告げる。
「御意」
「お供します」
 そして、煙草をもみ消すと、従順に頷くふたりとともに、薄汚れた路地裏を後にする。
 彼にもまた、為すべきことは山のようにあった。
 使命の重みに違いはあろうとも。

 それは飛鳥の知らない世界での出来事、非現実にも見える、現実の中でのひとコマだった。



「あー・にー・きっ! あっけましてっ、お・め・で・とおおお――――う!!」
 太陽もまだ地平線の彼方、という、薄暗い早朝のことだ。
 飛鳥は懐かしい夢を観ながら、穏やかな時間にまどろんでいた。
 ――のだが、ものすごく唐突に、恐ろしく明るい、恐ろしく間抜けな叫び声が響くと同時に、正確に過ぎる第六感が、何かが自分に向かって突っ込んでくることを警告してきたので、一切の前ふりなしでベッドから跳ね起き、その塊を腕に抱え込んでベッドにたたきつけた。
 その辺りの行動は、この十七年間で身体に染み付いた脊髄反射とでも言うべき代物で、飛鳥自身はほとんど無意識のうちに、相手が誰とも判らぬ状態でそれを行っていたのだが、
「っぎゃ――――っ!?」
 ごみょっ、という小気味よい……というか面白い衝撃があり、それとともに断末魔の悲鳴が響いたので、ようやく飛鳥は、ここが東京のあの路地裏ではなく、日本どころか地球ですらなく、ソル=ダートの名で呼ばれるまったくの異世界であることを思い出した。
 そして、ここがリィンクローヴァという国の、国王陛下の住まいに近い王城の一室であることを思い出す。そこには、住人に悪意を持つ者を通さない、不思議な魔法がかけられているという。
 だとしたら、今飛鳥が無体を働いた相手は、飛鳥に危害を与えようという刺客の類いではない。
「……何をやってるんだ、お前は」
 そこまでを一瞬のうちに判断した飛鳥が、呆れた声とともに見下ろすと、ベッドに顔を突っ込んだ――というより顔から突き刺さった――圓東が、足をひくひくさせながら悶絶しているところだった。
「うう……お、驚かせようと思っただけ、なのに……!」
「そりゃ驚いたわ。特に今のお前の姿にな」
「そ、それってアニキの所為じゃん! うう、いたたたた……首が折れるかと思ったよ……」
「正直、折れなかったのがびっくりだ。鍛錬って大事だな」
「え、多分それタンレンとかの問題じゃないと思うんだけど……!」
 うう、とまたしても呻いた圓東が顔を上げ、首をさすりながらベッドから降りる。
 飛鳥は小さく首をかしげた。
 妙な言動も多い(飛鳥主観)、小動物的で騒がしい眷族だが、こんな激しいスキンシップをしたがる人間ではなかったはずだ。むしろ、肌と肌のふれあいというそれに関しては、あまり好まなかったようにすら思う。
「で、どうかしたのか。わざわざそんな間抜けな方法で俺を起こしに来たからには、何か理由があるんだろう。というかなかったら殴る」
「今真顔でなんかおっかないこと言った……!」
「当然だ。この俺の安眠を妨害したからには、それくらいの罰は与えられてしかるべきだろう」
「ううっ、アニキ法ハツレイだっ。絶対死刑になるっ」
「ま、時と場合によるな。……それはいいから、とりあえず、起こしに来た理由を言え。どこかの馬鹿が襲撃でもかけてきて、迎え撃つ必要でもあるのか。俺は今すぐにでも出られるぞ?」
「いやいやいやいや、そんなブッソウな! なんですぐそっち方向に考えるかな!? ただ、初日の出観に行かない? って思っただけだって!」
「初日の出? それは昨日だろうが。俺はもう観たぞ」
「だっておれ観てないもん。だからおれ的初日の出」
「二十歳超えた男がもんとか言うな。だいたい、どんなわがままな初日の出だ、それは」
「えー、いいじゃん。皆も一緒に行ってくれるんだって! だからアニキも行こうよー!」
 先の戦い以降、言動が更に幼くなったような気がする圓東が言い募る。
 飛鳥は大仰な溜め息をつき、仕方ない、と頷いた。
「新年に騒がれても迷惑だ、つきあってやろう」
 それは、日本にいたころの飛鳥を知る者が観れば目を剥いて驚きかねない、穏やかに過ぎる折れ方だったが、そのことを理解するものはこの場にはいない。こういうとき、飛鳥は自分がまったく別の地に来たことを実感する。
 わずかな懐かしさ、わずかな郷愁とともに。
「で、どこに行くんだ?」
 広大なクロゼットからいつもの、黒一辺倒の衣装を引っ張り出し、手早く着替えながら問うと、圓東は中学生にしか見えない顔をあっけらかんとした笑みで彩り、答えた。
「うん、お城のてっぺんだって。王様が入ってもいいって言ってくれたから」
「そうか。レイも来るのか?」
「うん。ってかもう待ってるよ」
「暇な国王陛下もあったもんだ。もしかして、最初から示し合わせてたのか」
「え、あ、うん」
「……俺に話を通さないとはいい度胸だな。覚えてろ」
「って、なんか一瞬殺意が見えたんですけど!?」
「今この場で殺られないだけありがたいと思え」
「またしても死刑宣告……!」
 恐ろしさのあまりガタガタ震える圓東を尻目に、さっさと着替えを終わらせた飛鳥は、スタンダードのごとくに懐へ携帯電話を滑り込ませ、発起人である圓東を放って部屋を出た。
 薄情なのは生まれつきである。
「ちょっと待ってよ、アニキ!」
 バタバタという騒がしい足音とともに、隙だらけの足取りで圓東が走ってくる。当然のように隣に並んだ小動物的眷族を、飛鳥もまたごく自然なこととして受け入れていた。
 ――それを稀有だと何度も思う。



 階下へ降りると、そこには、顔馴染の面々が勢ぞろいしていた。
 飛鳥の護衛兼側近である金村、黒の御使い直属の騎士であるイスフェニアとノートヴェンディヒカイト、飛鳥直属の文官アルヴェスティオン。第五天軍将軍グローエンデ、その配下の副将軍ふたり、近衛騎士団長リーノエンヴェ、赤と青を身に負う双子異形。飛鳥に勉強を教えてくれた博士たちもいるし、飛鳥と一悶着あったのち、いつの間にか配下となり協力者となり信望者となった面々の姿もある。
 お陰で、にわか朝日鑑賞会参加者は全部で二十人を超える大所帯になっていた。
「……何の大会だ、これは」
 戦時中とは思えない暢気さに、飛鳥は思わず呆れたが、
「そう言うなよ、せっかくのめでてぇ日だ、一緒に行こうぜ」
 白銀の髪に紫水晶の目をした、神々しい美貌の青年が、晴れやかに、開けっ広げに笑って言ったので、肩をすくめて苦笑する。
 彼がすでに、三年前に亡くした唯一絶対の存在を凌駕する『絶対』となりつつあることを、言葉なしに自覚している。彼の言葉や眼差しのすべてが、飛鳥を縛り律する強い制約となり、同時に飛鳥に揺るぎない力を与えるのだ。
「好きにしてくれ」
 ――無論、輪から喪われて久しく、もはやそこに見出せない顔もある。
 この世界に来てすでに半年が経ったが、様々な出会いと、様々な戦いと、様々な別れとで彼らの日々は彩られていた。
 飛鳥自身、驚くような、我が目を疑うような変化を経験し、もはや戻れないことを強く自覚している。自分から、残された時間が徐々に削り取られてゆくことを理解している。
 血に濡れた手はもはや清められはせず、むしろ穢れてゆくばかりだろう。
 これからも飛鳥は、自ら進んで手を汚し続けるだろう。
 ――それでも飛鳥は、この時間を、この世界を、自分を取り囲むすべての存在を稀有だと思い、また密やかに感謝する。
「んじゃ、行こうか」
「ああ」
「リーエが茶の準備してきてくれたから、あっちで飲もうぜ」
「……のんきなことだ」
「ん?」
「仮にも戦争中だろう、今」
「まぁな。俺も思わなくもねぇよ、それは。でも、こういうときくらいは頭も身体も休めてやらねぇとな。それに」
「それに?」
「楽しいから、いいんじゃねぇの?」
「――……そうだな」
 レーヴェリヒトが浮かべる裏表のない笑みに、飛鳥もまた笑った。
「昨日も言ったけど」
「ああ」
「今年もよろしく頼むわ」
「……ああ」
 何よりも真直ぐに自分へ向かう、一片の偽りをも含まない白銀の青年王の心根を面映く感じつつ、彼のために、彼の愛するもののために自分を削るのならそれも悪くない、と思う。

 ――夜明けはもうすぐだった。