「お前が魔法とかいうものを使えたなんて、初めて知った」
現れた人物、現在の飛鳥がもっとも心を砕く青年王にそう声をかけると、言われた本人は小さく首をかしげ、困ったように笑った。
「そっか」
――ひとりで、飛鳥を追いかけて来たのだろう。
真円に満ちた月光、天空を彩る星光、雪原に降り注ぐ陽光、それら諸々の光を思わせる白銀の長い髪は、先刻の雨によってぐっしょりと濡れそぼり、優美な盛装と同じくレーヴェリヒトの身体に張りついていた。
恐らくは最上級の絹の、彼のために作られた衣装は、この様子では下手をすると二度と使い物にはならないかもしれない。
それでも、その程度の些細なことは、彼の神々しい美貌、美しい立ち姿の前にはいささかの疵にもならない。
「うん、そだな、本当は使えねぇことになってる。公の場で使ってみせたこともねぇな」
「――どういうことだ」
「アスカ、お前魔法の仕組みは知ってるか」
「知るわけがないだろう」
「そこで胸を張るなよ……まぁいいや。あのな、普通の魔導師は、ハイルも含めて、世界に満ちた精霊の力を借りて魔法をこの世に顕現させるんだ。だから、一般的な魔法ってのは精霊魔法なんだよ」
「ふむ、それで?」
「俺のこれは神霊魔法っつってな、五色十柱の神々から直接力を借りて使うモンなんだ」
「そうか、そりゃなかなか大がかりだな。だが、それが本当は使えないことになっている理由なのか?」
「んー、なんて説明したらいいんだろうな、神々ってのは、何でか知らねぇけど、精霊や精霊王と比べると『遠い』んだ。助力を乞うにも、その『距離』を埋めねぇとこっちからの声は届かねぇ。届きゃ、普通の精霊魔法の何倍もの力が出せるんだけどな」
「つまり……神霊魔法というのは、根本的に使うことが難しいのか」
「そうだ。使える人間も決まってる。精霊王に匹敵する魔力を持つと言われるハイルだって、神霊魔法は使えねぇ」
「……じゃあお前、結構すごいのか、実は」
「実はってとこにすげぇ引っかかるんだが……まぁ、正直なとこちっともすごかねぇな。俺は専門的な勉強をしてるわけじゃねぇから、使えるのは神霊魔法の一部だけだし、使おうと思って咄嗟に使えるもんでもねぇ。今回は、加護持ちのお前がいた所為かな、『距離』がずいぶん短くて、魔法の発動もそんなに苦労しなかったが」
「なるほど、魔法が使えますと堂々と名乗るにはあまりに使い辛いわけか。下手に公表するとかえって混乱を招きそうな力だな」
「そういうこった。だから公表してねぇってのもある」
「まぁ、だが、それのお陰で俺は助かったわけだからな。ありがとう、感謝する」
飛鳥が言うと、レーヴェリヒトはちょっと驚いた顔をし、そのあと明るく笑って首を横に振った。
「いや、それで誰かが、特にお前が助かったんなら、俺もこの力を持っててよかった」
「まったくだ。お前が来なかったら大変なことになるところだった。心の底から安堵しているぞ、今。……ああ、というか、神霊魔法が使える人種ってのはどういう連中なんだ?」
「……それも知らねぇのかよ、お前」
「知らん」
きっぱりとした彼の言に、レーヴェリヒトが小さく首をかしげた。
「……まぁ、いいけど。神霊魔法ってのは、神々にもっとも近い人間だけが使えるモンだ」
「神々に近しい人間?」
「そう、身体の二箇所、主に髪と眼に加護色を宿す者、つまり」
「…………加護持ち、というヤツか」
「正解だ。まぁ、加護持ちは二箇所が同色の特別な連中を差す言葉で、別に加護色が二色でもいいんだけどな。赤と黒とか、黄金と青とか。ちなみに神霊魔法が使えるのは人間だけだ。カノウとウルルは二ツの色持ちだが、異形にゃ神霊魔法が使えねぇ」
「……待て、なら」
「ん」
「何故お前はそれが使える。加護色とは、黒・白(白銀)・黄(黄金)・赤・青の五色だろう。その言で行くなら、お前の加護色は一色のはず」
ゲミュートリヒでの数日で、飛鳥は、レーヴェリヒトもまた貴い加護の色を持つ存在なのだと言うことをメイデやアルディアから聴かされていた。
美しい白銀の、美しい髪。
こちらもまた滅多には現れない、白の加護色だという。
だが、神霊魔法を使い得るものがふたつの加護色を有するものだとして、レーヴェリヒトの目にあるのは目映いアメジストだ。飛鳥の故郷ではなかなかあり得ない、稀有なほどの色と輝きは確かに神々しいが、しかし、それではくだんの神霊魔法が使える条件には当てはまらない。
飛鳥のもっともな問いに、レーヴェリヒトがまた困ったように笑った。
どこか諦観を含んだ、どうにもならないものへの笑みだった。
「……なあ」
「ん」
「見せても、気味悪ィとか言わねぇ?」
「何の話だ」
「だから、その、」
「お前が神霊魔法を使える理由とやらが他にあるのか。気味が悪いと言われてしまうような?」
「知ってんの、今は多分、リーエたち一家と、双子と、グロウと、ハイルくらいだと思う。子どもの頃、これを観た先代の中央黒華神殿最高神官には不吉だって言われた。……言われたの、五つになる前くらいだったけど、それが、辛かったんだ。だから、」
「――――お前の持つものであるなら、例え何であれ、それを忌避はしない。俺にとって一番重要なものが何なのか、お前には判るだろ?」
「…………うん」
きっぱりした飛鳥の言葉に、レーヴェリヒトは目元をほころばせ、子どもっぽい仕草で頷いた。
それを幾つだお前と苦笑するのと同時に、飛鳥は、この美麗な、誰からも愛されていそうな青年王にも、何か耐え難いトラウマがあるのだと、この闊達さが、純真無垢なだけのものではないのだということを気づかされた。
恐らく、きっと、間違いなく、レーヴェリヒトもまた、辛い痛い何かを超えて、今の彼となったのだ。
その事実は、飛鳥を、少しほっとさせた。
「で、それは一体何なんだ。実は背中が冬場でも毛皮要らずの剛毛まみれで、その毛が、凝視してると眼がチカチカするほどの赤色ですとか、実は尻の真ん中に黄金の眼が張り付いてますとかそんなんなのか? まぁ、確かに珍妙だが、別に不吉ってことはないだろ」
「ううっ、何でだろう、今わりと真面目な話をしてたはずなのにっ。でもそんなんじゃなくてちょっとよかったとか思った自分が心底いやだ……っ」
「なに言ってるんだ、真面目で悲愴なレイなんか面白くもない。その程度じゃ驚かないから、言ってみろよ」
「面白くなくて、悪かったな……」
――脱力したように頭を抱えるレーヴェリヒトは、それが、飛鳥なりの慰めで、励ましだと、気づいただろうか。
飛鳥は決して、可哀相にとも辛かったなとも、お前が悪いんじゃないとも、言わない。――きっと、そんな言葉は、そんなありきたりで温かな言葉は、レーヴェリヒトを愛する周囲の人々が、何度も何度も繰り返して言い聞かせただろうから。
飛鳥はその代わりに、益体もない憎まれ口で、彼の口元に呆れたような苦笑を浮かばせるだけだ。
「やっぱアスカはアスカだな。なんか、嫌がられたらどうしようとか悩んで損した」
「……褒め言葉か?」
「え、うー……うん、まぁ、多分」
「何だその間は」
「いや、だから、その。まぁいいじゃねぇか。――――でも、うん。何だろな、そう言ってもらえると、なんか……かえってホッとする。変に慰められるより、気が楽になる。ありがとな」
「……そうか」
照れを含んだレーヴェリヒトの言葉に、飛鳥はかすかな笑みとともに肩をすくめてみせた。
それでいい、と、思う。
飛鳥は、その立ち位置が自分のあるべき姿であり、まっとうすべき責務でもあると思う。
甘やかすのでも、叱咤するのでもなく、ただレーヴェリヒトが、自分自身の意志で自分の立つべき場所へ戻ることが出来るように、切羽詰って呼吸できなくなった魂を脱力させ、また悲愴感を忘れて気の抜けるような――意図せず苦笑が漏れるような、そんな態度を崩さずにいようと思うのだ。
「まぁいいや、じゃあ、ちょっと観てくれ」
苦笑とともに言ったレーヴェリヒトが、すっかり身体に張り付いてしまった衣装の、上着に手をかける。
何をする気かと首をかしげる飛鳥の目の前で、
「う、やっぱ濡れると脱ぎにくいな……」
などとこぼしながら、紐を解き、ややこしく重ねられた布を剥がしてゆき、やがて上半身を覆うすべての衣装を脱ぐ。
月光の下にさらされた、一分の隙もない硬質的な身体を前に、飛鳥はぽつりとこつぶやいた。
「……お前、そういう趣味があったのか」
「へ?」
「まさか、一国の王が裸を観られるのが趣味だなんて……」
「えええッ!?」
飛鳥の言葉にレーヴェリヒトが目を剥く。
「いや、違うっつの! 人の話を聞けよ、まず!」
「何が違うんだ、この痴漢」
「教えろって言われたから見せようと思って脱いだだけなのにいきなり犯罪者扱いかよ!? しかも痴漢なんて、滅茶苦茶不名誉だ!」
「まぁ確かによく鍛えてあって見事だとは思うがな。これで俺が女だったら、国王陛下に変態行為を働かれたと大声で触れ回るところだ。いやむしろ城に帰ったらひとまず触れ回っておくか」
「ぎゃーっ! やめてくれ、そんな人聞きの悪い噂が立ったらご先祖様に申し訳が立たねぇッ!」
「ははは、遠慮するな」
「遠慮じゃねえぇ……ッ!!」
徐々に本題からずれてゆく――というよりずらしているのは飛鳥なのだが――間の抜けた会話を繰り広げつつ、飛鳥の視線はレーヴェリヒトの背中へと釘付けになっていた。
斜め向きの立ち位置で、完全には見えていなかったため、最初は目の錯覚かと思ったが、違う。
白磁のような、傷ひとつない滑らかな肌と、一目で実用本位に作り上げられたと判る、すらりとしなやかなのに鋼や金剛石を思わせる硬質さ、強靭さのある身体。
どこからどう見ても武人のそれなのに、どこまでも美しいとしか言いようのない身体の、その背に、それはあった。
「……なるほど」
小さく頷いて、飛鳥は水を吸って重くなった黒髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
それは、彼の滑らかな背を彩る、漆黒の痣。
――否、それを痣と言ってもいいものなのか、飛鳥には計りかねた。
驚くほど奇妙な文様だった。
そしてそれは、驚くほど奇妙な風合いをしていた。
「それが、ふたつ目か」
静かな声に、頭をかきむしらんばかりの勢いで身悶えていたレーヴェリヒトが動きを止める。
どうでもいい話だが、まったくもって、外見と言動が一致しない人物だとは思う。もっとも、それが彼の魅力でもあるのだが。
「ああ……うん」
「何故、そんなところに?」
「何でだろ、俺にもよく判んね。ただ……うん、帰り際、お前、訊いたよな。何で俺だけ銀髪なのかって」
「ああ。あの時は金村たちが追いついて来た所為でうやむやになったな」
「俺は純粋なリィンクローヴァ人じゃねぇんだ」
「……」
「俺の母さんはリィンクローヴァの王族でも貴族でも国民でもなかったし、他国から嫁いで来た姫君でもなかった」
「……過去形か。故人なのか」
「俺が八ツになった頃に死んだよ。病か何かだったと思う。幸せだったって言い残して死んだから、あんまり哀しまないことにしてる」
「そうか、それはきっといいことなんだろうな。お前にとっても、お前の母君にとっても。その母君が、銀髪の持ち主だった?」
「うん。白銀の髪に白銀の眼だった」
「……同色の髪と眼。それは、つまり」
「そう、白の加護持ちだ」
自分以外の加護持ちの存在に、そういう者が本当にいるのだと、飛鳥は少なからず驚かされた。
黒髪に黒眼ならそう珍しいものではないが、銀髪に銀の眼など、飛鳥の故郷たるあの世界では存在し得ないだろう。
それが、レーヴェリヒトの母親なのだ。
それゆえに、レーヴェリヒトの髪は、歴代の国王や王族とは一線を画した色彩となったのだ。
――これで御髪が黒なら。
飛鳥は、ジオールダの言葉を、今更のように思い出していた。
あれは、純血の王ではないレーヴェリヒトへの、遠回しな侮蔑を込めた物言いだったのだ。
(あいつ、次に会ったら本気で泣かす。もう、額のこすり付けすぎで顔が地面にめり込んで呼吸困難に陥るほどの勢いで土下座させてやる)
そんな物騒な決意が胸の奥に固まったのは、レーヴェリヒトには秘密だ。
「出身はモーントシュタインって聞いてる。客として、城下の大きな商家に滞在してたんだと。俺の親父殿は、母さんと出会う何年か前に前王妃を亡くしてた。で、その日町に下りて、運命の出会いとやらを果たしたんだとさ」
「なるほど。それで、お前の髪はその色なのか」
「そうだ。普通なら、王族がどんな血筋の人間と結婚しても、生まれて来るのは黒髪のはずなんだ。王族の血ってのはそんくらい強いんだと。でも、俺は、母さんの血の力が強かったから、銀髪になった。王族としては異質だってんで、母さんが生きてる間は城下で暮らしてたんだ。母さんも、王妃として城に上がるつもりはなかったみてぇだしな」
「ああ、だからその口調か。心底納得した」
「はは、うん、そういうことだ。俺はこの言葉遣い、気に入ってるけどな。俺の根本みてぇなもんだから。まぁ、王城に上がったばかりの頃はよく陰口を言われたけど。純血の兄上も姉上もいたから、俺はホントは王になんかなるはずもなかったんだ。だけど、巡り巡って、今こうしてる」
「王になったのはその痣が理由なのか?」
「どうかな。理由のひとつではあったと思う。生き場をなくした王族の血が、痣というかたちで顕現したんだろうって話だったけど。特異だってことで、公に発表はされてねぇし、それだけが理由なら、国民は何で俺が王になったのか、きっと納得はしなかっただろうな」
それはつまり、血筋の不確かさや色彩の異質さも問題にならないほど、レーヴェリヒトが優秀で賢明な王であり、国民にとって善き王であったということなのだろう。血や色などではなく、ただ、このレーヴェリヒト・アウラ・エストという人間そのものが、国民たちにとっての最善であったということなのだろう。
それは飛鳥には、レーヴェリヒトが純血の王であるよりも貴く聞こえた。
「……不思議だな」
「ん?」
「お前が王様じゃなかったら、多分、俺はお前に会わなかった」
「……そだな」
「すごい、偶然だよな」
「……うん」
「お前と会わなかったら、今ごろどうなってたかなんて想像もつかないが、でも、なるはずもなかったお前が、王様になってくれててよかったと思う」
「…………うん」
はにかんだような笑みを浮かべるレーヴェリヒトの、幼くすら見える様子に少し笑い、そして再び彼の背中へ目をやった。
そこにあるのは、漆黒の痣。
二対四翼のかたちをした、黒水晶を髣髴とさせる輝きの。
竜だろうか、鳥だろうか。
レーヴェリヒトの、しなやかで白い背に、四枚の優美な翼が広がっている。
あの、ソル=ダートの部屋で観たのと同じ、光沢のある闇色の翼が。
そのコントラスト、白と黒の饗宴は、眼が醒めるほど鮮やかで、たとえようもなく美しかった。
――人間の肌に、その光沢があり得ないと判っていても、そんなものは些細な、どうでもいい『常識』にすぎない。
「それに」
「ん?」
「俺はその痣、綺麗だと思う」
「……そうかな」
「先代の最高神官とやらは耄碌(もうろく)してたんだろう。もしくは、美的感覚が生まれつき壊滅してたんだよ」
「でも、髪と眼以外に加護色が出るなんて、変じゃねぇか?」
「ん、なんだ、案外悲観的なんだな、お前。他に例がないなら言った者勝ちだ。大体、俺は好きだぞ、それ。他の誰が気味悪いとか不吉だとか言っても、俺はそれ、絶対に誰かからの祝福だと思う」
「……そんな風に言われたの、初めてかも知んねぇ」
「そりゃ、他の連中の目が節穴ってことだろ」
双子やリーノエンヴェたちを悪者にして、飛鳥が肩をすくめると、レーヴェリヒトはくすぐったげに笑った。
「…………ありがとう」
きっと、それは、レーヴェリヒトの抱える疵のひとつ。
彼が、今の彼になった理由のひとつ。
「礼を言われるようなことでもないな。事実なんだから」
それでも、そうやって笑えるのなら大丈夫だと、飛鳥は思う。
彼にもまだ、笑って話せない疵は多いけれど、痛みが薄れるにつれ、大丈夫だと思えているから。
そしてその『大丈夫』のために飛鳥が必要なら、飛鳥がいることでレーヴェリヒトが些細な疵を気にせず笑えるのなら、彼は手を差し伸べることを厭うつもりもないのだ。
その程度の覚悟なら、いつでも出来ている。
「……さて、じゃあ帰るか。濡れたままでいるのも気持ち悪いし、なんか疲れた。部屋に帰ってとっとと寝たい」
「気持ちは判るが、逃げてったヤツの聞き取りとか絶対にあるぞ」
「うわマジか。面倒臭いな……まぁ、仕方ないか。城の警護を司る連中としちゃ、今後の対策も練らなきゃいけないだろうしな。ああ、そういえば金村はどうしてる」
「もうひとりの刺客と睨み合ってた。アイツにお前を追ってくれって言われてこっちに来たんだ、正解だったよ。向こうの方も、もう勝負はついてるだろうな。心配か?」
「多少はな。だが、まぁ、何とかしてるだろう、彼なら」
「信頼してんだな」
「……多分な」
言いながら飛鳥は歩き始めた。
濡れた衣装をやりにくそうに再度着直したレーヴェリヒトが隣に並ぶ。多少気持ち悪くても、痣を見せたくはないのだろう。
「……なあ、レイ」
「なんだよ?」
「やっぱりあさって、一日休んでもいいか」
「あ? 別にいいけど。なんの心境の変化だ?」
「いや、今日の一件でどっと疲れた。ちょっと怪我もしたし、一日ゆっくり休みたい。あと、時間があったら城下に下りて街を歩いてみたいな」
「そっか。じゃ、そう伝えておく。城に帰ったら傷の手当てもしてもらえよ」
「ああ」
知らぬ間に、傷の痛みは遠ざかっていた。
気の紛れることがあったからかもしれない。
――傷の手当てをして、ゲマインデとやらの報告をして、今夜はゆっくり休もう。明日は神殿とやらに行って、明後日はのんびり過ごそう。
脳裏に予定を思い描きながら、飛鳥は月光に照らされた森の中を歩く。
今日一日でたくさんのことがあった。
たくさんのことを知った。
飛鳥はそれを、素直に喜んでいた。
深まってゆく理解へなのか、初めて出来た特別な人間が、自分を信頼しているとはっきり自覚できたことへなのかは、判然としなかったけれど。